ちくわ天ブログ

オタク報告

デナムの歯磨き『華氏451度』

非オタの人と話してて本当にビックリするのが、思った以上にインターネットを見ていないのと、逆にめっちゃテレビを見ているのと、芸能人のゴシップに詳しすぎることなんですけど、そういうのありませんか?

インターネット見過ぎもアレなんですけど。

 

 

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最近になってやっとレイ・ブラッドベリの『華氏451度〔新訳版〕』を読みました。

 

め、めちゃくちゃ読みづれえ〜…というのもSFディストピアなんだなっていう色眼鏡で読むとその幻想文学のようなポエジーさに圧倒されちゃうんですよね。

あと単純に元々そういう表現が多いみたいで、訳がはちゃめちゃ大変なんだなっていうのが後書きから伝わってきました。歴史的に言えば3人目の訳なんですね。

 

内容はいわずもがななんですけど、別に焚書そのものの話ではないのかなと思いました。

 

書物には魔術的なところなど微塵もない。魔術は、書物が語る内容にのみ存在する。

 

ここいいですよね。本を読むことも持つことも禁止されて、自分で考えたり他人と意味のある会話ができなくなっちゃった市民は、壁に映し出される映像と無限に流れるラジオで、どんどんバカになっていくんですよね。

本来テレビとかラジオが、ここでいう魔術を秘めたものでないといけないんですけど、この世界のメディアは内容なんて全然無くて、暴力的な情報の快楽みたいに描かれてるイメージです。

そういう情報に浸かって思考停止を良しとする世界観なので、本みたいな思考を養うものがタブーなんですよね。

あらすじとしては本を燃やす「ファイアマン」でありながら、ほんまか?と思い始めた主人公の物語なんですけど…。

 

 

言うほど予言めいてはいなくね?

少し先の未来として描かれてはいるものの、現実はもっと複雑なので、幸いもう少しマシかなと思います。時代背景を考えると「ラジオ・スターの悲劇」的な憂いとかノスタルジーの一種とも思えるんですけど、現実に令和で生きてる人間としては新しいメディアとそれにまつわるカルチャーはそこまで大変なことにはなっていないかなと思います。

ただ、どっちかっていうと受け取り方の問題で、明らかに「何も考えずに楽しんでいいもの」が多いなとは思いますよね。あるいは何も考えずに他人の感想をまるパクしとけば問題ない場面とか。

悪質な犯罪とかが報道されて、ただただ悪いことする人間が悪いってなる空気が苦手なので、まあそうですねって言っていつも苦笑いでお茶を濁してしまうみんな〜。

 

自称本好きはしんどい

実際しんどくないですか?自分は本が好きだなあとは思うもののそこまでいっぱい読むほうじゃないし、古典もそこまで押さえてないし、読まないジャンルは読まないし。かといって本が好きってとこから何か成し得ることも難しいじゃないですか。

でも色んな本を読んでいくと、自由な思想に触れるわけじゃないですか。その中で今まで培われた考え方と矛盾する部分も出てくるわけですよ。そういうものを脳に蓄えて血肉に変えて生きていくわけですけど、それって純粋に生きていくのに必要ないと思うんですよね。

ほとんどの人間が起きて会社行って働いて帰って寝る生活を送っている以上、生きる目的がどうとか、社会の仕組みがなんちゃらとか、こういう思想がヤバいとか、考える必要も無いし考えないほうがいいんですよね。

人生に意味や使命は無いし、実際にあるのは目の前の生活と周りに生きている人間くらいじゃないですか。

いやほんと、働いてお金貰ってご飯を食べて欲しいものを買って嫌なことがあったら美味しいもの食べてお酒を飲んで忘れよう!っていうマインドが大事だし1番楽だと思います。

 

だから、そういうマインドに浸れずかといって何者にもなれない穿った見方ばっかり育ってしまった自称本好きはかなりしんどいんですけど、

華氏451度』のいいところは、ささやかな肯定をくれるところです。

「ひとつ絶対に忘れてはならないことがある。お前は重要ではない、お前は何者でもない、という思いだ。」

 

戦争で全てが無くなった後に本として生きていく人々が言うんですけど、確かに人生に意味が無い以上未来に希望を託していくスタイルくらいでいいのかもしれません。

淡々と、本が持つ魔術を継承させるために生きていくだけの器として「お前は重要ではない」んですが、これって結局モンターグ自身のありのままの生の肯定でもあるのかなと思います。そうであってほしいと思ってしまうだけなんですが。

 

何が幸せなのか

ただどうしても考えてしまうことがあって、「本」の人たちは結局国から迫害されて逃げたりして自然の中ひっそり移動して暮らしてる一方、多くの市井の人々は自分の生に疑問も持たず一瞬のうちに滅びを迎えるじゃないですか。

これってワンチャン後者のほうがよっぽど幸せなんじゃないですか?

戦争が終わった後で、いつか自分たちが役に立つ日が来ることを確信している「本」の美しい生き方もわかるんですけど、令和に生きる社会不適合者としてはかなり苦しい気持ちになってしまうんですよね。

 

フライパンで焼いたベーコンがマジで旨そう。

 

 

 

 

おわり

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